債権回収の方法とは?時効や注意点についてわかりやすく解説
売掛金や未収入金が入金されなければ、債権回収に着手しなければなりません。入金されない状態を放置していたり、気付かないでいたりすると、自社の資金繰りが悪化する可能性もあります。しかし、連絡を取ってみてもなかなか支払いに応じない相手には、どのような方法で支払いを促せばよいかわからない方もいるのではないでしょうか。
本記事では、債権回収の概要と主な方法、債権の時効について解説します。債権回収が必要な状況にならないための予防策も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次[非表示]
- 1.債権回収とは
- 1.1.債権回収が必要なケース
- 1.2.債権回収にはスピードが重要
- 2.債権回収の主な方法
- 2.1.交渉
- 2.2.内容証明郵便による督促
- 2.3.仮差押え・仮処分
- 2.4.民事調停
- 2.5.訴訟
- 2.6.簡易裁判所からの督促
- 2.7.少額訴訟
- 2.8.強制執行・差押え
- 3.債権には時効がある
- 4.債権の未払いを防止するためのポイント
- 4.1.債権の管理を行う
- 4.2.取引基本契約書を作成しておく
- 4.3.債権の保全をしておく
- 5.債権回収をスムーズに進めるためのポイント
- 6.早めの取り掛かりでスムーズに債権回収をしよう
債権回収とは
債権回収とは、債務者から債権を取り戻すための取り組みです。債権とは、相手から金銭の支払いを受ける権利を指し、売掛金や未収入金などが該当します。一方、債務者とは支払い義務のある個人や法人のことであり、債権者は支払いを受ける権利を持つ個人や法人のことです。
ここでは債権回収について、必要となるケースや重要なポイントを解説します。
債権回収が必要なケース
債権は通常、債務者に請求書を送ることで支払期限までに支払われます。しかし、そうでない場合、債権回収のための行動を新たに起こす必要があります。具体的には以下のようなケースです。
- 債務者からの入金がなく、連絡が取れない
- 債務者から「支払いを待ってほしい」と言われた
- 債務者が支払いを拒否している
また債務者が不渡りを出したり、経営状態が悪化したりしていることがわかった場合も、債権回収を実施しなくてはなりません。不渡りや経営状態の悪化は、債権の支払いが難しい可能性が高いためです。債務者の経営状態がさらに悪くなれば、自社が回収できる債権にあたる財産がなくなってしまうケースもあるでしょう。
債権回収にはスピードが重要
上記のような場合には、早急に債権回収に取り掛かりましょう。債務者からの入金がない場合には、他社への支払いもできていないことが考えられます。経営状態がさらに悪化したり、倒産したりすることも考えられるため、債権を早めに回収しなければなりません。そうしなければ、他社への支払いで債務者の資産がどんどん減っていくでしょう。そのため、確実に債権回収を行うには、早めに手を打つことが大切です。
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債権回収の主な方法
債権回収の方法には、段階ごとに以下のようなものがあります。
- 交渉
- 内容証明郵便による督促
- 仮差押え・仮処分
- 民事調停
- 訴訟
- 少額訴訟
- 強制執行・差押え
最初のうちは、交渉や内容証明郵便など、自力で催促する方法で債権回収を図りましょう。それでも債務者が支払いに応じない場合は、適切な方法で裁判所に申し立てて手続きを行うことになります。以下で、それぞれの方法を詳しく見ていきましょう。
交渉
まずは債務者に支払ってもらえるよう交渉しましょう。電話やメール、対面などで入金がないことを知らせ、支払いを催促します。債務者に支払う意思がある場合やただ忘れているだけの場合は、交渉によって債権回収ができる場合も多いでしょう。
自社からではなく、弁護士を通して催促することも可能です。弁護士が客観的な立場で説得することで、債務者に心理的なプレッシャーを与え、支払いに応じてもらえることもあるでしょう。「裁判になるかもしれない……」という不安から、支払いを受けられる場合もあります。
しかし、それでも債務者が支払いを拒否している、連絡が取れないといった場合は、別の方法を検討する必要があります。
内容証明郵便による督促
交渉しても支払いがない場合は、内容証明郵便による督促を行います。内容証明郵便とは、内容や差出人・受取人、差出日などについて郵便局が証明する郵便物のことです。第三者を介して督促することで信頼性が増し、「正式な請求である」ことを債務者に認識させて心理的なプレッシャーを与えられます。
内容証明郵便には、金額や支払期日、振込口座など、支払いに必要な情報を記載します。加えて、「期日内に支払わなければ法的措置を講じる」といった文言も添えることで、より効果的になるでしょう。
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仮差押え・仮処分
督促や訴訟などの手段を取る前に、仮差押えや仮処分などの対策を講じておきましょう。
仮差押えとは、債務者の持つ金銭や換金できる財産の処分を禁じる手続きです。仮差押えができるのは、債権額に相当する範囲の財産です。もし訴訟で債務者からの支払いが確定した場合に、債務者が弁済に充てられる財産を持っていなければ債権回収ができません。
仮差押えを行うことで、勝訴した場合は確実に債権を回収できます。勝訴した場合の債権を保全するために行うものであることから、「民事保全」とも呼ばれます。
仮処分とは、債務者の持つ金銭債権以外の権利を差し押さえ、処分できないようにする手続きです。仮処分の対象には不動産や美術品などが挙げられ、第三者に売却されることを防止します。勝訴した場合は、仮処分となったものを競売にかけることで金銭に換えられます。
仮差押えと仮処分は、債権者が裁判所に申し立てることで実施する手続きです。裁判所による審査の結果、仮差押えや仮処分が認められた場合、債権者は事前に担保金を支払い、債務者が勝訴した場合に発生する損害に備えなければなりません。
民事調停
裁判ではなく、両者の話し合いである民事調停を行うことも可能です。両者が裁判所に赴き、調停委員会が間に入って解決を目指します。民事調停は訴訟と比べて簡易に実施できて、かつ費用も少額です。債務者に支払う意思があれば、着地点を柔軟に検討できるでしょう。
一方、両者が合意しなければ訴訟へ移行します。どちらかが民事調停を欠席すると話し合い自体ができないため、債権回収が行き詰まることも考えられるでしょう。
訴訟
これまで紹介した方法で債権回収ができなければ、訴訟を起こして裁判所の判決に委ねることになります。裁判所が両者の主張を踏まえて、債務者に支払い義務があるかどうかを判断します。そのため、債権回収の最終手段といえるでしょう。
判決ではなく和解によって裁判が終了する場合も多くあります。和解の場合は、債権の支払い義務があることに両者が合意し、一括や分割で支払うことが一般的です。また、裁判を避けたいという債務者の意向により、和解へ至ることも少なくありません。
簡易裁判所からの督促
債務者が督促や民事調停に応じない場合は、裁判所から督促してもらうことも可能です。債権者が裁判所に申し立て、書類を提出して簡単な審査を受けることで督促してもらえます。複雑な書類を準備する必要がなく、書類の提出は郵送でもできるため、債権者にとって手間のかかりにくい方法です。訴訟に比べると、手数料も半額程度で済みます。
支払い督促ののち債務者から異議がなければ、裁判所の仮執行宣言を得て、強制執行に移れます。しかし、債務者から異議が出れば通常訴訟となり、債務者の住所地の裁判所で行われる審理に参加しなければなりません。
簡易裁判所からの支払い督促について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
関連記事:支払督促とは?手続きの流れや未払いを減らす方法も紹介
少額訴訟
債務者への請求金額が60万円以下の場合は、簡易裁判所で少額訴訟を実施できます。原則として1回の審理で判決が出るため、迅速な解決が期待できる点がメリットです。
通常の裁判のように、控訴や上告もできないため、判決が出たら完結します。ただし、債務者が通常の訴訟を希望した場合は、少額訴訟ではなく通常の裁判に移行しなければなりません。
強制執行・差押え
訴訟で判決が出たにもかかわらず債務者からの支払いがない場合は、財産を差し押さえる強制執行が行われます。現金や銀行預金を回収したり、不動産や自動車を競売にかけてお金に換えたりすることで、債権回収を図る方法です。
「強制執行時に差し押さえられる財産がない」という事態にならないために、事前に仮差押えや仮処分をしておかなくてはなりません。
債権には時効がある
債権には時効があり、消滅してしまう可能性があります。時効が成立すると、債権を回収できなくなるため注意が必要です。ただし、時効によって自動的に債権が消滅するわけではありません。また、時効を更新する方法もあるため確認しておきましょう。
債権の時効とは
2020年4月の民法改正により、債権は債権者が権利を行使できると知ったときから5年、または権利を行使できるときから10年で時効が成立するようになりました。時間の経過によって時効になるのではなく、債務者が時効の援用(時効による利益を受ける意思表示)をすることで時効となり、債権の支払い義務が消滅します。
債務者が時効を援用すると債権回収はできなくなります。そのため、支払われないまま時効が到来しそうな債権については、時効更新の手続きを視野に入れなくてはなりません。
時効を更新する方法
時効は、一定の事由によって更新することが可能です。更新措置を実施することで、時効までの残り期間にかかわらず、時効期間が5年延長されます。具体的な事由は、以下のとおりです。
- 債務者に対して支払いの訴訟を実施する
- 裁判所を通じて支払い督促をする
- 債務者から債務の承認を受ける
- 債務者から債務の一部について弁済を受ける
- 債務者から支払いを猶予してほしいとの申し出がある
なお、内容証明郵便を送ることで時効は6か月延長されますが、上記の措置を行った場合のように時効期間はリセットされません。これを時効の完成猶予と呼びます。
債権の未払いを防止するためのポイント
債権回収は、場合によっては時間や手間、費用がかかります。そもそも債権回収が必要な事態が発生しなければ、このようなコストも抑えられるでしょう。ここでは、債権の未払いを防止するためのポイントを3つ紹介します。
債権の管理を行う
債権の未払いを防止するためには、日頃から売掛金や未収入金の管理をしておくことが大切です。支払期日に入金がなければ、ただちに債務者へ確認しましょう。
単純に支払いを忘れているだけであれば、スムーズに入金される可能性が高いです。経営状態の悪化などの問題がある場合でも、交渉や督促など取るべき手段を早い段階で選べます。
日々の債権の管理によって、スピーディーに債権回収を実施できるでしょう。
関連記事:債権管理とは?重要性や業務フロー、効率化のポイントを解説
取引基本契約書を作成しておく
新たに取引を始める相手とは、取引基本契約書を締結するのがおすすめです。取引に関する契約書は、主張の食い違いによる紛争の防止や、権利を有することの証明に役立ちます。
基本的な取引内容に加えて、万が一債権回収をしなければならなくなった際に有利になるような内容を盛り込んでおくとよいでしょう。主な条項としては、支払いの期日や連帯保証人、一度でも支払いが遅れた場合は存在する債務のすべてを支払わなければならないとする「利益喪失条項」などが挙げられます。
債権の保全をしておく
債権の未払いリスクを軽減するために、債権の保全をしておくことも視野に入れましょう。期日内に入金されなければ資金繰りに影響する可能性があり、自社の経営状態も悪化してしまいます。
主な方法としては、債務者からの支払いがない場合に、債務者の持っている債権を譲渡することで支払いに代える「債権譲渡担保」が挙げられます。また、債権をファクタリング会社へ売却することで債権から手数料を引いた金額を得られる「ファクタリング」も、債権を保全する手段の1つです。債権回収がスムーズに実施できない場合でも、確実に回収できる、資金に困らない対策を準備しておきましょう。
債権回収をスムーズに進めるためのポイント
債務者の経営状態が悪いときは、債権回収をスムーズに進めることは難しいものです。そこで、事前に調査を行ったり専門家に依頼したりすることで円滑に債権回収できるでしょう。以下では、スムーズな債権回収を実現するためのポイントを2つ紹介します。
事前調査を行う
債権回収を行うためには、事前調査によって債務者が持っている資産を把握する必要があります。債務者が資産を持っていなければ、支払う意思がある場合や裁判所に申し立てを行う場合でも、債権回収ができません。
債務者の資産には、土地や建物、車、有価証券などが考えられます。また、ホームページなどからメインバンクを把握して預金のある口座を調べたり、取引先を把握してどの会社に債権を持っているかを調べたりすることも一案です。債務者の資産について事前に調査した上で、債権回収を進めましょう。
専門家に相談する
債権回収には、法律に関する専門知識が欠かせません。そのため、弁護士や債権回収の代行会社などの専門家の力を借りる必要があります。
債権回収の代行業者は、一定の要件を満たした上で国から債権回収業務を許可された会社です。しかし、回収できる債権は一部の種類に限られています。一方、弁護士であれば債権の種類を問わず債権回収の代行が可能です。スムーズに債権回収できる戦略も立ててもらえるため、より迅速に回収を進めたい方は弁護士への依頼を検討しましょう。
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早めの取り掛かりでスムーズに債権回収をしよう
債務者からの支払いがない場合は、早めに債権回収に取り掛かることが大切です。特に、経営状況が悪化している債務者の場合、早期に債権を回収できなければ、より複雑な手続きが必要になります。最悪の場合、債権回収ができないことも考えられるでしょう。
債権回収が必要になった場合に適切な方法を選択できるよう、どのような方法があるかを把握しておかなくてはなりません。また、債権回収が必要とならないように、日頃から債権の管理や取引の契約、債権の保全を行い、万一の場合に備えておくことが重要です。
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